事業承継の落とし穴―経営支配権-

有限会社ビジネス・インスパイア 取締役

愛知大学会計大学院非常勤講師

公認会計士・税理士

花野 康成

2.経営支配権とは?

前回、経営支配権を明確に定義せずに失敗例を説明しました。

ここでは、もう少し明確に経営権と支配権を説明します。

なお、説明するに当たっての前提は次のとおりです。

  • 株式会社であること。
  • 株主総会の定足数を定款で軽減・排除していないこと。

 

それでは、具体的にみていきましょう。

経営権とは

議決権のある株式の過半数以上を所有している場合、その会社の経営権を有しています。

経営権を有していると株主総会の普通決議を議決することができます。

普通決議で決議できる主な項目は次のようなものです。

  • 取締役・監査役の選任
  • 役員の報酬等
  • 剰余金の配当
  • 準備金の額の減少
  • 剰余金についてのその他の処分

 

まず経営権があれば、取締役と監査役を選任することができます。

つまり、取締役になって社長(代表取締役)になることができるのです。

また、通常の会社運営のために必要な権限もあります。

しかし、会社にとって重要な事項である定款を変更したりすることはできません。

支配権とは

議決権のある株式の2/3以上を所有している場合、その会社の支配権を有しています。

支配権を有していると株主総会の特別決議を議決することができます。

特別決議で決議できる主な項目は次のようなものです。

  • 定款の変更
  • 取締役・監査役の解任
  • 合併・会社分割・株式交換・株式移転
  • 合意による特定の株主からの自己株式の取得
  • 相続人等に対する売渡請求
  • 株式の併合
  • 資本金の額の減少
  • 全部取得条項付種類株式の取得

 

これにより、社名を変更(定款変更)するなど重要な事項を行うことができます。
また、他社と合併するなど、会社を根本的に変える決定もできます。
つまり、会社に関することは、ほとんどすべて行うことができます。

 

支配権を有していても安心という訳ではありません。
経営権および支配権以外の拒否権や単独株主権や少数株主権にも注意が必要です。

拒否権とは

議決権のある株式の1/3超を所有している場合、その会社の拒否権を有しています。

拒否権は、支配権の裏返しで、重要な決議を阻止することができます。

単独株主権と少数株主権

単独株主権は、一株でも所有してれば主張できる権利です。

具体的には、株主代表訴訟と取締役に対する違法行為差止請求権です。

つまり、1株あれば会社にかわり取締役を訴えることができるのです。

少数株主権は、所有する株式の数や所有期間によりその権利が異なります。

たとえば、会計帳簿閲覧請求は3/100の株式を有する株主に認められています。

完全経営支配権

ここまで株主の権利をみてきましたが、100%所有している株主に敵う者はありません。

会社経営において制約のない状態を保持することができます。

中小企業の事業承継においては、この完全経営支配権を目指します。

 

なぜなら、少数株主が単独株主権や少数株主権を行使してくる可能性があるからです。

取締役に対して株主代表訴訟を起こされたら、経営どころではありません。

しかし、株主代表訴訟の多くは中小同族会社で提起されているのです。

 

また、支配権を有していても安心できません。

発行済株式の30%を有する株主から買取りを要求された場合を考えてください。

株価総額が10億円の会社の場合、3億円です!

 

このような不安を抱えないために支配権で満足せずに100%所有を目指しましょう!

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