2024.12.13
寺尾会計の税務的な毎日
働き控え解消に向けての施策
今年も12月中の税制改正大綱案の公表に向けて、税制についての議論が繰り広げられています。
11日には、「年収103万円の壁」を取り払うべく
自民、公明、国民民主の3党が所得控除の改正について合意しました。
【基礎控除】
令和7年分から、所得税の非課税枠を引き上げる。
引き上げる金額は未確定ですが、現行の48万円から段階的に引き上げられて
最大で123万円(+75万円)となりそうです。
基礎控除の引き上げによる税収減は、国税だけで4兆円弱と試算されています。
働き控えが解消されることにより、減少した以上に税収が増えるか、気になるところです。
【特定扶養控除】
大学生年代(19~22歳)の働き控えを解消するため、年収要件を広げる。
大和総研によれば、
『親等が所得控除を引続き受けられるのであれば、より多く働きたい学生』は約61万人。
日経新聞の試算によれば、働き控えをしている学生の年収が25万円増得た場合には
個人消費が1060億円増える見込みです。
消費が増えれば消費税が増え、購買増加により法人の利益が増えれば法人税が増え、
さらには人材不足も解消されうると考えると、改正の影響が楽しみになるところです。
働き控えに影響を及ぼしているのは税制だけでなく、社会保険制度も同様です。
【社会保険】
厚生労働省はその部会において、週20時間以上働く短時間労働者は、
その賃金の多寡にかかわらず社会保険(健康保険と厚生年金)に加入する方針を固めました。
この改正により、働き控えの解消や社会保険の財政改善が期待されます。
この改正でどのように働き控えが解消されるのかについて説明すると、次のようになります。
現行の制度においては、被保険者が50人以下の事業所の場合、原則として
週の所定労働日数が常時雇用者の4分の3未満の短時間労働者については
社会保険に加入することはできません。
例えば、正社員が週40時間働いている会社においては、
週30時間未満のパートさんは社会保険に加入できないということです。
社会保険に加入できない方は、その配偶者が社会保険に加入している場合、
その配偶者の被扶養者となるため、社会保険料を納入する必要がありません。
そこで、上記の例で言えば30時間を超えないように働き控えをしている方は少なくありません。
今回の改正が成れば、社会保険の加入義務者とならないように働き控えするためには
週20時間を超えない働き方をする必要があることとなります。
これまで週25時間、時給1000円で勤務してきた方が週20時間以内になるように働き控えをした場合、単純計算で年に24万円の減額となります。
これまで通り働いた場合の社会保険の負担は年に約16万円ですから、
制度が改正されれば、これまで通り又はこれまで以上に働くモチベーションとなるでしょう。
3年前に岸田政権が始まってから税制大綱案において継続して検討事項とされてきた
『働く意欲を阻害せず、公平で、働き方に中立的な税制を構築するための諸控除の見直し』が
ここにきて形になろうとしています。
物価や最低賃金は上昇し、人材不足は加速する社会において
税制や社会保険制度がどこまで経済の活性化をけん引できるか。
また、持続可能な歳入を確保していくことができるのか。
12月下旬の税制改正大綱の公表や来年3月の税制改正、
そして、その後の日本経済や財政の健全化の動きから目が離せません。