2020.11.03
経営支援資料館
中小企業こそ、残業を減らしたい! 第5回 残業時間削減の事例 その2 ~全社の仕組み&働きやすい仕組み~
ライター
吉田典史
全社の仕組みを作る
中小企業には、残業を減らすことができない構造や仕組みがあります。
その1つが、 個々の社員がバラバラに動き、組織として動くことがなかなかできないことです。
今回は残業を減らすために、全社規模で取り組んでいる事例を紹介します。
都内のITベンチャー企業で、創業15年。社員数は約70人。
現在、全社員の月平均残業は約12時間。5年程前までは、40時間を超えていました。
改善策
5年前から、人事部員が毎月、全社員の残業時間を確認します。
30時間よりも多い社員がいる場合、その部署の管理職や役員に確認し、
今後の改善策を話し合います。
本人に確認するだけではなく、上司(部課長)や本部長、担当役員にもヒアリングをします。
あえて、組織の問題にしているのです。
月1度の経営層会議で人事部員が全社員の残業時間を 社長以下、役員、本部長など16人に報告します。
社長が、残業が多い社員がいる部署の役員や本部長に状況を確認します。
会議を終えた後、役員は本部長と今後の具体策について議論し、
残業時間削減に早急に取り組みます。
それを社長に報告することを義務付けています。
常に、社長が意思決定をすることで、責任の所在を明確にします。
残業削減につながる働きやすい仕組みを作る
全社の仕組みを作るだけでは、残業を減らすことはなかなかできません。
中小企業の場合は、残業削減できない構造があることを常に心得ましょう。
それを克服するために試みたいのが、社員たちが働きやすい仕組みです。
悪しき仕組みは、連載第2回で紹介しました。
特に問題視するべきは、定着率が低いことです。
いかに定着率を高め、特定の社員に仕事が集中しないようにするか、と
考える必要があるのです。
フルサポート制度による定着率のアップ
このベンチャー企業は、
社員が働き方をライフスタイルに応じて選ぶことができる「フルサポート制度」を
4年前から始めました。定着率を高めることが、狙いです。
対象となるのは、妊娠中の女性社員や配偶者が妊娠中の男性社員、
小学6年生までの子どもがいる社員、家族の常時介護をする社員など。
現在、全社員の約4割が制度を利用しています。
次の4つの勤務形態から、各自が1つを選択できます。
- 「週4日勤務」
週の労働時間は所定労働時間のままで、4日に集中して勤務。土日祝日に平日1日を休日に加え、「週休3日」とする。 - 「週6日勤務」
週の労働時間は所定労働時間で、6日に分散して勤務。平日5日に加え、土曜日を勤務日にする。 - 「Fワーク勤務」
自宅もしくは要介護者の住む実家での勤務を月2回まで可能とする。
2日の勤務時間(1日は7.75時間)は、5:00~22:00の間で選ぶ。 - 「フレックスタイム制勤務」
コアタイムを10:00~15:00とし、1日の勤務時間(7.75時間)を5:00~22:00からスライドする。
最も多いのが、④の「フレックスタイム制勤務」。
4つのコースの所定労働時間9:00~17:45の7.75時間(週38.75時間)は通常のままで、
基本給が変わることがないことを前提にし、つくられました。
各自が選択したコースは、3ヵ月ごとに変えることができます。
上司を通じて、人事部への届け出が前提になります。
残業を減らすうえで常に気をつけることは、
全社や各部署が組織として動く仕組みを作ることに加え、
定着率を高める仕組みも少しずつ作っていくことです。