事業承継の落とし穴―経営支配権-
有限会社ビジネス・インスパイア 取締役
愛知大学会計大学院非常勤講師
公認会計士・税理士
花野 康成
1.経営支配権から見た事業承継の失敗例
株式会社において、後継者の経営支配権を考慮しない事業承継は失敗します!
- 後継者が経営者の地位を承継できない。
- 後継者が安定して経営を行うことができない。
- 敵対的な少数株主を排除することができない。
今回は、具体的な失敗例をみていきます。
社長になれなかった後継者
社長が急死したが、後継者の息子が株式の40%しか相続できなかった。
そのため社長になることができなかった。
そもそも社長自身、会社の株式の40%しか保有していなかった。
残りの株式は、専務(社長の弟)と役員及び取引先が保有していた。
後継者である息子は、専務と折り合いが悪かった。
そのため、専務が残りの株主の支持を取り付けて社長に就任した。
最終的に、息子は相続した株式を専務に売却することを余儀なくされた。
安定しない経営
社長と専務(社長の弟)で、会社の株式をそれぞれ60%と40%の比率で保有していた。
その後、社長と専務のそれぞれの息子が会社に入社した。
社長は、自分の息子を後継者にしたいと考えていた。
しかし、社長より専務の方が会社の成長に貢献しているとの内外の評価であった。
このような状況下、社長が自らの息子を社長にした。
これに対して、専務は退任するとともに退職金と株式の買取りを要求した。
会社は専務の要求を受け入れざるをえず、退職金と株式の買取りで数億円を支払った。
その結果、会社の資金繰りが悪化し、厳しい経営を迫られることになった。
内包する潜在的な敵対株主
現経営者である会長は、息子に事業承継しようと社長に据えて経営を任せていた。
株式についても35%を既に贈与していた。
しかし、経営方針をめぐる対立が激しくなり、会長は息子を解任した。
解任された息子は、取引先なども巻き込み社長への復権を画策した。
息子の行動に危惧を覚えた会長は、息子の持株比率を下げることを考えた。
具体的には、新社長に第三者割当増資を行うこととした。
しかし、第三者割当度増資を行う株主総会の特別決議に息子が反対した。
結局、株式の1/3超を有する息子の反対により否決された。
会長は、遺言書に息子へ株式を相続させないという記載を残して、数年後に亡くなった。
これらは、私にご相談のあった事例を、一部事実を変えて簡略化して記載しています。
どれも中小企業で実際に起きたことです。
いずれも事前に経営支配権について適切な対策を講じていれば防ぐことができたものです。
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