事業承継の落とし穴―経営支配権-
有限会社ビジネス・インスパイア 取締役
愛知大学会計大学院非常勤講師
公認会計士・税理士
花野 康成
5.株式の集約対策
一度、分散してしまった株式を集約化することは簡単ではありません。
しかも問題が起こってからでは、集約化はもっと困難になります。
潜在的な問題に気がついた時から対策に着手する必要があります。
株式集約化のための具体策を以下ではみていきます。
株式の買取り
相手から直接株式を買い取るという最も簡単な方法です。
ただし、買い取るための資金が必要ですし、相手の同意も必要です。
すでに株価が高い場合には、困難な場合もあります。
自己株式として取得
会社が自社株を買い取ることを自己株式の取得といいます。
会社に内部留保(分配可能額)が十分にある必要があります。
また、売主の株主の課税関係には注意が必要です。
みなし配当といって総合課税される部分が生じるからです。
第三者割当増資
特定の者に新株を発行することにより持株比率を高めることができます。
ただし、次のような要件をクリアーする必要があります。
- 増資により定款に定める発行可能株式総数を超えない。
- 著しく安い株価で増資を行わない(有利発行)。
- 株主総会の特別決議が必要である。
相続人等からの売渡請求
株主が死亡した時に、株式を相続人等から会社が買い取れる制度です。
これを行うには、定款に規定する必要があります(特別決議が必要です)。
ただ、買い取るかどうかを決めるのは、その時の取締役会だったりします。
そのため、取締役を支配している必要があります。
種類株式の発行
平成18年の会社法よりいろいろな種類の株式を発行できるようになりました。
中でも取締役の選任に対して拒否権を持つ黄金株が注目されました。
後継者に黄金株を持たせることにより経営権を確保するというものです。
従業員持株会
相続税対策でも用いられる従業員持株会ですが、経営支配権対策でも活用できます。
従業員や役員が個人で会社の株式を持っているような場合の対策に使います。
持株会に集約してしまえば、議決権は持株会がまとめて行うことになります。
持株会の理事長と良好な関係を保てば、経営権に悪影響を及ぼすことはありません。
全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式というものを使うと少数株主の議決権を奪えます。
詳細は省きますがドラステックな方法です。
ただし、この方法を実行するためには、いくつかの条件があります。
- 議決権の2/3以上を押えていること
- 反対株主から株式を買い取るだけの分配可能額があること
これらの方法を組み合わせて株式の集約を図り、経営支配権を確保します。
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