相続税対策としての生前贈与
寺尾会計事務所
税理士 寺尾省介
この原稿は平成27年8月8日時点の法令によります。
第3回 暦年贈与の効果的活用
前回、生前贈与する効果と、4つの問題点についてお話ししました。
生前贈与する方の4つの問題点
- 贈与する現金がない(財産のほとんどが不動産)
- 不動産を何年もに分けて贈与すると、不動産取得税などの費用がかさむ
- 贈与すると子供や孫が現金を使ってしまい、教育的に良くない
- 自分の老後も心配だから、現金は贈与したくない
生前に土地を売却して、現金贈与
上記①と②を解決するためには、
使っていない土地を売却して現金を得る、というのが一つの案です。
被相続人の相続後に、土地を売却して相続税を納税するというのは
これまでもよく行われてきました。
これは、相続から一定期間内に土地を譲渡した場合には、
所得税の譲渡所得の計算において、所得税の大きな減税ができたためです。
(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)
しかし、平成26年度の税制改正により、平成27年1月1日から、
減税できる割合がかなり下がり、この特例の節税のうま味が激減しました。
そこで、『相続前に土地を売却して、生前贈与の原資に変え』というのも
見逃せない生前贈与対策になりました。
使っていない土地に固定資産税を払い、相続時には財産に計上し、
相続後には譲渡所得として税を納めるよりも、
相続前に売却し、現金を生前贈与や納税資金とした方が有利になる場合もある
ということですね。
もちろん、活用して収益を生める土地であれば、
土地を活用して、収益を家族に贈与するといった方法も有効な生前対策になります。
生命保険を活用して、生前贈与
さて、
上述した理由のうち③子の教育上よくない、④自分の老後資金も備えたいという方は、
生命保険を活用することで解決できることがあります。
保険料負担者 | 被保険者 | 保険金受取人 | 税金の種類 |
---|---|---|---|
父 | 父 | 父 | 所得税 |
子 | 相続税 |
例えば、上の表のように、生命保険の契約者(保険料負担者)を父、被保険者を父、
満期受取人を父、死亡時の受取人を子にした場合、
父の生存時には、父の生活費用として保険金を受け取れます。
父の死亡時には、子への贈与と同様の効果を持たせつつ、一定の額まで相続税は非課税です。
この方法であれば、財産を相続するのと同時期に現金を受け取ることになるため
子にとっては納税資金にもなります。
また、暦年贈与と生命保険をうまく組み合わせることで、
効果的な生前贈与を行うこともできます。
スライドの③の場合、子供が契約者ですから保険料は子供が払うことになります。
この保険料相当額を、父が毎年贈与します。
年払いにしておけば、基礎控除(110万円)以内の贈与になると思います。
こうすれば、贈与した現金を使われることなく、継続して生前贈与ができます。
今回は詳しい説明はしませんが、
保険料相当額の贈与は、贈与契約書を毎年作成しなくても、
定期贈与(連年贈与)や名義預金とみなされることがないため、
そういった点でも、生前贈与として優れた効果を発揮します。
暦年贈与の効果的活用のポイント
暦年贈与の項の最後に、効果的活用のためのポイントをまとめましょう。
- 多くの人に分散して贈与する
1人に500万円を贈与するより、5人に100万円を贈与したほうが
相続税対策としての生前贈与の効果が高くなります。
また、1人に500万円を贈与しても「ありがとう」と言われるのは一度です。
どうせ贈与するならば、たくさん「ありがとう」と言われる方が嬉しいものです。 - 贈与する年を分散する
1年に200万円を贈与するより、2年間で100万円ずつ贈与したほうが
相続税対策としての生前贈与の効果が高くなります。
ちなみに、12月に贈与して、1月にまた贈与すると、贈与する年が変わります。
短い間に贈与ができるので、おすすめです。 - 長い期間、継続して贈与する。
100万円を1年だけ贈与するより、5年間贈与したほうが
相続税対策としての生前贈与の効果が高くなります。
前にも少し触れましたが、定期贈与とみなされないように、
贈与契約書を作成する、生命保険を活用するなど、工夫しましょう。 - 相続財産を取得する人以外に贈与する
相続財産を取得する人以外の人に贈与すると、
相続税を計算する際の3年内加算を避けることができます。
なみに、法定相続人であっても、財産を相続しなければ加算されません。 - 生命保険を活用して贈与する
生命保険は、相続税対策を含む相続対策に大きな効果を発揮しますので
相続対策を考える際には一度は検討すべき項目といえます。
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