ASEAN経済共同体とタイ進出の基礎知識
ASEAN JAPAN CONSULTING 株式会社(日本法人)
Kaigai Advisory Co.,Ltd..(タイ法人)
代表取締役 阿部俊之
第6回 日本の中小企業におけるタイ進出の事例など
過去の記事で大規模な財閥の解説をした後、
今度は実際の日本の中堅企業や中小企業の進出事例をご紹介する。
※タイには既にバンコク商工会議所登録ベースで1600社。
日系企業とカテゴリーされる企業数で8500社以上が進出済みである。
在留日本人は登録ベースでおよそ6万人を越えた。
在留邦人向け事業
※日本の外務省がまとめた「海外在留邦人数調査統計」によると、海外在住の日本人は
2014年10月時点でタイは世界第5位で6万4285人と発表されている。
在留邦人数がこの規模になると、日本人のみをターゲットにした事業も増加していて
日本人向けフリーペーパー、日本人向け美容室、日本人向けカラオケ、
日本人向け宅配サービス、日本人向け不動産仲介、日本人人材紹介など
数多くのサービス産業が進出している。
これらの産業は一般的なタイ人をターゲットとしていないため、価格は高く設定でき、
サービスの質が良ければリピーターとなるため、参入企業は増加傾向にある。
在留邦人向けフリーペーパー
例えば、フリーペーパーでも最大手の会社の部数は3万部以上、週1回発行。
バンコクを含めた近郊の個人、企業へ配布される。
広告読者がかなりいることから、
一企業あたりの広告料金は1回で7000バーツ(2万円)~8万バーツ(24万円)以上する。
出稿企業数は400社と大きく成長している。
在留邦人向け人材紹介
日本人やタイ人を人材紹介する企業もニーズが高い。
タイでは日本のような長期雇用を慣習化していないため、
人材の確保や優秀な人材のリクルートが非常に難しい。
さらに失業率が極めて低い中で、人材の市場は完全な売り手市場となっている。
紹介人材の確保、人材教育のフォローアップなどで、
タイの労働省から許認可を受けた日系人材紹介会社「パーソネル」は
業界最多の紹介者数を続けており、優良人材紹介会社の表彰も受けている。
こちらも日本人社員15名、タイ人社員60名と急速に拡大していて、
毎年多くのタイ人、日本人を在タイの企業へ紹介し続けている。
日系企業によるクリーニング
この他にはクリーニング事業も伸びている。
都内を中心に展開している「喜久屋」は、2012年にタイへ進出。
タイではこれまでメイドによる洗濯サービスや、
街中で洗濯代行と呼ばれるパパママビジネス的な店舗は数多くあったが、
所得の増加でファッションの多様化が進み、
日本や韓国などへの海外旅行で冬服を着用する機会も増えた富裕層は、
単純な水洗いでは落ちない洋服を専門クリーニング店舗へ出すようになった。
日本式クリーニング機材を導入した大型工場で洗濯し、
キレイに洗い、各支店へ定刻に届ける、という
日本では当たり前のサービスがアジアでは非常に驚かれる。
同社は、既にタイへ進出済みの日系のスーパー、
コンビニエンスストアなどとも提携して店舗展開を行い、
買い物帰りのタイ人顧客などをターゲットとして拡大を進めている。
日本人にとっての不用品を販売
日本の中古品も売れている。
日本人はモノを大事に使い、駐在員は一定の期間で帰国してしまうが
全ての荷物を持ち帰ることができず、不用品を引き取って欲しいニーズがあることから
不用品リサイクル、ブランド品販売を始めた企業も成長している。
日本では、まだ利用価値のあるものでも不用品となってしまうケースが多いが、
それをアジアの人が喜んで購入している。
日本の頑丈でコンパクトな傘、はやりのデザインのバッグ、靴などが
タイ人の中間層に非常に人気である。
このように、日本では既に成熟産業、斜陽産業と呼ばれている分野でも
潜在的なニーズがアジアにはまだまだ数多く眠っている。
それを掘り起こすビジネス機会がある中で、
おそらく今後はアジアの中間層も日本並みの所得を目指すように成長していく。
筆者としては、ASEAN各国でのリスクは当然有るものの、
日本のサービス産業、日本の中小企業の進出機会はますます増えていくこと、
そしてASEANでの日本のプレゼンスが一層増していくことを期待している。
[完]