不動産に関する基礎知識

株式会社東京カンテイ

名古屋支店 不動産鑑定室

不動産鑑定士 波多野 茂

名駅シフト?

近年、「名駅シフト」という言葉を聞きます。

それは、名古屋の商業中心部が「名駅地区」「栄地区」の2地区から、

「名駅地区」の一極集中になりつつあることを意味しています。

 

名駅地区では近年、オフィスビル等の商業施設の建築が相次いでいます。

かつて、名古屋の商業地の中心地の代表といえば栄でしたが、

いまやその地位は名駅の一人勝ちになりそうです。

 

2027年にはリニア中央新幹線の先行開業も予定されています。

果たして名駅に優位性は認められるのでしょうか?

今回は、両地区を不動産の側面から検証していきます。

①商業施設整備の動向

まずは、名駅地区及び栄地区において、

近年整備された商業施設をまとめてみました(竣工予定を含む)。

 

Ⅰ.名駅地区

 

名駅地区は、平成11年12月に竣工したJRセントラルタワーズ以降、

大型商業施設や高層事務所ビルの建設が相次ぎました。

超高層ビル群を「名古屋の摩天楼」と表現されることもありました。

事務所の大量供給によって名駅地区へ事務所を移転するケースも多く見受けられます。

名駅地区の建築ラッシュは継続中であり、今後も大きなプロジェクトが予定されています。

 

Ⅱ.栄地区

 

栄地区は、名駅地区の動向に比べると近年、商業施設の動向に大きな変化は見られません。近年のトピックは、歩行者天国(大津通)、丸善名古屋栄店の移転、

丸栄栄本館及び栄町ビルディングの建替構想と話題はありますが、

名駅地区と比較すると目新しさに欠けてしまいます。

 

名駅地区や伏見地区に新築事務所が大量供給されたことから、

栄地区における貸事務所は苦戦を強いられ、オーナーは賃料を下げてテナントを入れるか、空室率の悪化を覚悟しつつ賃料水準を死守するかという苦渋の選択を迫られています。

そのような事情を反映し、事務所の新規供給はストップし、

栄地区の近年のトレンドは、「都心回帰」を合言葉に、

分譲マンション等が建築されるケースが目立ちます。

②地価の最高地点

名駅地区と栄地区の地価の最高額(単価)はいくらなのでしょうか?比較してみましょう。地価公示は、一般の土地の取引価格の指標とするため、
全国の標準的な土地を選定して、毎年1月1日時点の価格を判定したものです。
都道府県地価調査は、各都道府県知事が毎年7月1日時点の価格を判定したものです。

 


単価については、中村区の地点が中区の最高地点に対して約3割高く、
地価は名駅が栄地区より相対的に高いことがわかりました。

③オフィス賃料動向

次に、両地区のオフィス(事務所)の賃料動向を比較してみましょう。

 

 

直近1年間の各四半期でいえば、名駅地区は栄地区よりも最大で10%ほど募集賃料が高く、相対的に栄地区よりも高めの賃料設定となっていることがうかがえます。

これは新築事務所が多く供給されているのも一因でしょう。

出費を抑えるのであれば、栄地区の方が優位でしょうか。

④オフィス空室率

空室率とは、そのオフィスビルの満室時に対する空室の割合です。

満室稼働であれば空室率は0%です。

 


リーマンショック以降の景気低迷を受け、

事務所の新規供給が止まったこと及び不動産市況の底打ち感も後押しし、

空室率は近年改善傾向にあります。
名駅地区は低下(改善)傾向がみられ、10%を下回るようになってきました。

一方、栄ゾーンは11%台を推移しており、苦戦が窺えます。

⑤最後に

両地区を不動産に関する側面から比較しました。

商業施設の整備動向、地価水準、オフィス賃料、空室率については

名駅地区に優位性が認められます。

 

しかし、名駅が良くて栄が悪いのかと言えばそういうことではないと思います。

名駅地区では、中部地区の玄関口である名古屋駅を中心に利便性・機能性を重視した

オフィス中心の機能的な街づくりが行われています。

一方栄地区は、エンターテイメント性を持った娯楽色の高い街づくりが行われています。

 

名古屋が他地域に劣らぬ魅力的な街づくりを目指すのであれば、
双方が特色を出して相乗効果を出すべきです。

 

名駅地区・栄地区の優劣を競いあうのではなく、
双方の街が双方に求められた役割を認識しつつ、「良きライバル」として発展していくことを願います。

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