事業承継の落とし穴―経営支配権-
有限会社ビジネス・インスパイア 取締役
愛知大学会計大学院非常勤講師
公認会計士・税理士
花野 康成
3.経営支配権の現状分析
通常、経営支配権の問題は潜在化しているため、問題が顕在化するまで意識しません。
しかし、問題が生じてしまうと、当事者間の関係がこじれ解決が難しくなります。
多くの場合、事前に問題点を把握することで、対策を立てることができます。
対策があれば、問題の発生を最小限にとどめることができます。
そのためには、経営支配権に関する現状分析が必要になります。
以下では、現状分析のポイントをあげておきます。
定款の確認
定款は会社の根本規則です。
経営支配権に影響する事項も定められています。
設立時から見直されていない定款も散見されますので注意が必要です。
次の事項について確認しましょう!
- 発行可能株式総数
- 発行する株式の内容
- 株式の譲渡制限
- 株券発行
- 株主総会の定足数の軽減
- 取締役会設置
- 最終更新日
会社登記簿
定款において定めた重要な事項は、法務局で会社登記簿に登記しなければなりません。
しかし、時々、定款と登記簿が異なる会社があります。
特に昭和41年以前に設立された会社は、要注意です!
それ以前は、株式の譲渡制限を付けることができなかったからです。
株主名簿
株主名簿は、会社法に定められた法定帳簿であり常備しなければなりません。
しかし、多くの中小企業では作成されていないことが多いです。
法人税の申告書別表2を株主名簿と勘違いしている人もいます。
株主名簿の法定記載事項は次のとおりです。
- 株主の氏名または名称および住所
- 株主の有する株式の数(株式の種類ごとに)
- 株主が株式を取得した日
- (株券番号)
株主名簿を見るときのチェックポイントは、次のとおりです。
- 名義株(真実の株式の所有者が名義人とは別にいる)
- 失念株(名義書き換えを忘れている)
- 所在不明株主(行方不明で連絡先がわからない)
- 自己株式(会社が購入した自社株)
持株比率の分析
定款、会社登記簿および株主名簿の確認が終わったら、株主グループ毎の比率を出します。
その際、次の点に留意して分析するようにします。
- 名義株の真実の株主
- 失念株の真実の株主
- 所在不明株主の株数
- 敵対的同族株主
- 従業員持株会の実態
- 役員持株会の実態
- 取引先持株会の実態
- 同族法人株主
- 相互保有株主(1/4以上を相互に保有する法人株主)
- 投資育成会社
- 金融機関
これらのポイントに注意して現状を分析したら、次に株式の集約化対策を立てます。
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