事業承継の落とし穴―経営支配権-
有限会社ビジネス・インスパイア 取締役
愛知大学会計大学院非常勤講師
公認会計士・税理士
花野 康成
4.名義株の整理
持株比率を確定する上での最大の障害となるのが名義株です。
後々の紛争の種であり、名義人の了解がえられるうちに整理する必要があります。
名義株の発生原因
平成2年の商法改正まで、株式会社の設立には、7人以上の発起人が必要でした。
つまり、7名以上の株主が必要でした(現在は一人でも可)。
それゆえ個人事業を株式会社にする場合には名義借りを行うことがありました。
多くの場合、家族の名義を借りますが、のちの相続の時に問題となりました。
それは、名義人(家族)が、自らが真実の株主であると主張するからです。
こうなると厄介です。
調停や裁判ということになります。
また、他人から名前を借りた場合でも、歳月が経過すると、約束は忘れ去られます。
時として名義人が株式の所有権を主張する場合があります。
その結果、実際の出資者とは別に、真実の株主が存在するになりました。
このような事態にならないように、記憶が新しいうちに念書を取り交わす必要があります。
名義株対策の基本は、紛争になる前に整理することです。
しかし、社歴の長い会社では容易に解決できない場合もあります。
その場合には、まず真実の株主を確定する必要があります。
真実の株主の確定
容易に所有権を確定できない時は、次のような点に基づいて検討することになります。
- 出資金額の払込の事実(払込人が通常は株主である)
20年も30年も前だと、当時の資料が残っていない。
関係者が死亡している。 - 配当金の受取り又はその所得の申告状況(受取人が申告していれば株主の可能性が高い)
配当を行っていない。
古い時代の配当は、誰に支払ったか資料が残っていない。 - 株主総会出席又は株主権(議決権等)の行使の実績(権利行使は株主の権利である)
そもそも株主総会を開いたことがない。
株主総会の議事録を毎回は作成していない。 - 株券の保有(株券を有していれば株主と推定される)
定款では株券を発行するとなっているが発行したかどうか不明である。
株券を紛失しており、所在が分からない。 - 株式の買取り実績(譲渡承認していれば株主の可能性が高い)
過去に株主を異動しているが、売買か贈与か異動原因が分からない。
一律額面で売買を行っている。
いずれにしろ名義株は、早期に整理する必要があります。
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