M&Aによる事業承継を考えた会社のオーナー社長が知っておくべきこと
経営コンサルタント 兼
製造業および小売店舗オーナー
中沢光昭
第4回 後継者・必要な機能を明確にする
M&Aの買い手にとって最も嫌なことは、「見えないこと」です。
見えないことが多いと、価格など買い手の諸々の判断は保守的になるため、
条件の合意がしにくくなったり、売却後に問題が生じることもあります。
「後継者がいない」の一言では終わらせない
前回、「同業者以外の方が高く評価してくれる可能性が高い」と述べました。
ただし同業者以外の方とのM&Aで起こりがちなのが、
買収後に引き取った会社の面倒を見られる人材がいないという問題です。
その点、同業他社であれば、買い手の自社内で鍛えたい若手、あるいは経営者自身など
社長になれる人材を諸々検討できるので承継のハードルは低くなります。
そもそも後継者がいないから事業承継問題が発生し、売却を進めているわけです。
ですから、せっかく高く評価してくれそうな事業者が出てきても、
後継者が見つからず、事業がうまく承継できないリスクが高いというような場合、
売り手はその矛盾に頭を悩ませることになります。
また、(社内人材では理解できない)業界特性から業務の課題を見抜くような、
全てを理解できる社長を用意しなければならないとなると
買い手にとっても承継のハードルは高いです。
しかし、「いったいどの機能が弱いのか」を明確に買い手に見せておくことで、
この問題はだいぶ解決に近づきます。
「管理系が弱い」とわかっていれば「じゃあ経理の●●を送ればいいんだな」、
「営業力が弱い」となれば「じゃあ新規開拓だけ自分がやればいいんだな」など、
どの部分を埋めれば良いのかはっきりわかるので買い手が検討しやすくなるためです。
悪材料ほど説明できるようにしておく
M&Aの買い手にとって「見えないこと」は、他にもあります。
例えば、話し合いに時間をかけている間に業績が落ちた場合の原因です。
「売り手を探しているうちに、時間とともに業績が落ちた」という事実があると、
「ということは、このまま落ちる前に売ろうということを考えているのではないか?」
というような、本意ではない捉え方をされてしまいます。
ですから、業績が落ちた場合には、
どんなリスクがあるか、どんなトレンドがあるかを説明できるようにした上で、
売却価格ではある程度の妥協点をもっておく必要があるでしょう。
そうして、悪い情報(業績)ほど、きちんとその理由を説明にすることによって、
売却が成立する可能性が高まります。
逆に、売り手を探してる間に業績が上がっていれば問題がないかと言えば、
必ずしもそうではありません。
あまり高くなりすぎていると(特に売上が上がらずに利益だけが上がっていたりすると)
「必要な投資を抑えて、見かけ上の利益を出そうとしているだけではないのか??」
など勘繰られてもしまいます。判断は難しいところですが…。
もし業績が上がりそうであれば、
妥当性の高い経営計画を作っておき、それを業績が出る前に買い手に提示することで、
買い手からの評価=売却価格を高めることができます。
「相手にとって、見えないこと」を極力減らす
事業承継した後の、売り手のオーナー社長の振る舞いについても、
「買い手から見えない」とボタンの掛け違いが生じかねない点だと筆者は捉えています。
売却後も売り手のオーナーに一定期間残ってもらって協力してもらうことを
買い手が望むことはよくあります。
それに対し、売り手から「もちろん! 愛着もある」という返事もよく出ます。
もちろん本気で言っていますが、買い手からすると「気持ちはそうなんだろうけど、
どこまで本当に機能してくれるんだろうか?」というモヤっとしたものが残ります。
ですので、気持ちや意思とは別にして、その点については
残って協力することへの対価なり成果報酬なりを買い手がはっきりと提示する、
提示されてこなければ、売り手から申し出る方が、交渉が進みやすいと筆者は考えます。
売り手によってはなかなか言い出しにくいという感情もあるかと思いますが、
買い手としてみれば「協力的に対応してくれるという言葉だけでなく、
スキームも用意できるほうが、継続性を確信しやすい」と捉えるでしょう。
(つづく)
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