中小企業のコストをかけない、効果的な人材採用・定着・育成法
フリーライター
吉田典史
第3回「定着する仕掛け」づくり
社長にとって楽しい職場が、社員にとって楽しいとは限らない
中小企業で人材を定着させるために大切なことは、
「社員にとって楽しい職場」をつくることです。
注意すべきは「社員」にとってであり、社長や役員ではないこと。
このあたりは、誤解されがちではないでしょうか。
2年ほど前、私が取材した東北のメーカー(社員数50人)のこと。
それよりも1年前、社員全員参加で、海外へ社員旅行に行ったのです。
「社員旅行は、海外へ」-。
これは、社長の長年の夢でした。
ところが、訪問先の国では社員のほとんどがつまらない表情だったようです。
帰国後、社長は思わぬことを聞かされます。
「社員旅行よりも、3~4日のまとまった休暇がほしかった」
「旅行の間も、上司と部下の関係でいなければいけないのが、嫌だった」
社長が社員のためにと思い、多額のお金を使っても、
社員からすると、つまらなかったということでしょうか。
このような意識の差は、日ごろから十分な意思疎通が行われていないから生じるのです。
この場合の「意思疎通」とは、社長から社員への指示・命令ではなく、
社員から社長への意見や考えを伝えることを意味します。
中小企業では、下から上への、ボトムアップが十分には行われていないのです。
「社員の定着」は、もっとも効果があるコスト削減
対策としては、社員たちだけで集い、話し合える場を設けること。
最近、私が取材したIT系の会社(社員数110人)では、
年に数回、「女子会」をしていました。
女性社員20人ほどが参加し、簡単に食事をするそうです。
これらの会に、社長や役員は1回につき、数万円の経費は払うものの、
会には参加しません。
社長は、こう話していました。
「社員が自分たちで判断し、会を運営するからこそ、意味があるのです。
このような自主性が、やがてはボトムアップの社風をつくっていくのです」
大切ことは、社長や役員はふだんから、社員らの考えを「真剣に聞く姿勢」を見せること。
この姿勢がないと、社員が「女子会」などをつくっても、「ぐちをこぼす会」に
なってしまいかねないのです。
中小企業では、好きな人たちと一緒に仕事をしているという雰囲気を味わえることが
必要です。
職場を好きになってもらいつつ、仕事をしだいに覚えてもらうようにしましょう。
一定のお金や時間を使い、採用したのですから、せめて3~5年は働いてほしいのです。
「社員の定着」は、コスト削減をするうえでもっとも効果がある手段なのです。
「会社との関わり」を意識させるようにする
次に取り組みたいのが、社員が自らの「近未来」をつくること。
「近未来」は、3~5年後を意味します。
例えば、経理課に配属された社員ならば、こんな目標です。
「3年後は、ひとりで全社員の給与計算を時間内で終えることができるようにする」
社員に、「会社との関わり」を意識させるようにするのです。
上司が、一緒に「近未来」を考えるようにしてあげてください。
意思疎通をするきっかけとなり、社員が職場を楽しく感じるきっかけになります。
「近未来」は、趣味や私生活のことでも構いません。
独身者ならば、「結婚すること」を5年以内の目標にしてもいいのです。
それらの目標を達成するための道筋や方法などを社員には考えてもらい、
会議の場で発表し合うのです。
「近未来」について、社長や役員が皆の前でほめたり、感想などを伝えてください。
社員たちが「3~5年後もこの会社に残り、がんばろう」と思えるような言葉を
かけるのです。
社長に社員のことを思う心があるならば、おのずといい言葉が口から出てきます。
社員の「定着率」を上げていくためには、
社長の心が広く、大きくなければいけないのです。
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