事業承継を円滑に進める人材戦略
Thermalworks株式会社
富平晃行
第5回 失敗しない中途採用の考え方
大切なのは「人が辞めない会社」づくり
「欠員補充」による採用は、まず「辞めた原因」の振り返りから
即戦力採用=採用したら何もしなくても活躍する人材という考えを捨てましょう。
前回は新卒採用についてお話をいたしました。
今回は中途採用の考え方についてお話をさせていただきます。
次期社長が果たすべき3つの役割
中途採用を成功させるには、
採用主任(次期社長)は3つの役割を担っていると自覚していただきたいと考えます。
一つ目は「優秀なリクルーターである」ということ
これはプロフェッショナル人材採用の際にもお伝えしましたが、
次期社長の思いや理念で優秀な人材を引っ張ってくるという役割です。
二つ目に「緻密なプロデューサーである」ということです。
どんなに優秀な人材であっても社長のサポートが必要なことが多々あります。
職場環境の改善や良い人間関係を築くためのサポートなど、
働きやすい環境づくりを常に心がけてください。
三つ目が「頼れるパートナー(同志)である」ということになります。
いざというときなんでも相談でき、かつ理念を共有しあい、
この人のために頑張りたい、一緒にやっていきたい、
と強く思わせる次期社長の力量が試されるのです。
いかに優秀な人材でも口には出さない小さな悩みを抱えているかもしれない、
という前提で社員一人一人と向き合う気持ちを大切にしていただきたいと思います。
欠員補充による中途採用が続かないように
中途採用の理由の最も多いものが「欠員の補充」です。
事業承継を控えた企業においては、まず足元を固める必要性からも
欠員が出てしまった場合、速やかに現状回復を行う必要があります。
しかし、この際、急いで求人を出すことも大切ですが、
その前に少し立ち止まって考えていただきたいことがあります。
それは、「なぜその社員は辞めたのか」という分析と改善です。
人は会社を辞めるとき、どんな本音があったとしても口にすることは稀です。
「社内がギスギスしすぎていて、居るだけでストレスだった」
「会社全体に成長しよう、挑戦しようという意思を感じなかった」
「任されてる仕事が毎日同じでやりがいを感じられなかった」
というような、会社にとってはメガティブな情報を
退職者があえて口にすることはほとんどないと言っていいでしょう。
退職者の本音にこそ会社の成長の種があると考える
しかし、こうした情報の中に、
「社員が長く働きたいと思う会社になる」ためのヒントが多く含まれています。
退職者の本音から見える課題をクリアせずして補充された社員が同じ理由で
数年後に会社を去るという悪循環だけは避けてほしいと思います。
退職者の本音を知るためには
- 本人に頭を下げてでも教えてほしいという姿勢で聞く
- 周囲の社員に「何か変わったことはなかった」か尋ねる
- 退職者が選んだ次の仕事(会社)の情報と自社をフラットに比較する
といった手法があります。
この際、周囲の社員に聞く場合は
その社員が何を言っても査定や評価には影響しない、
ということをあらかじめきちんと伝えておくようにしましょう。
事業承継を控えた企業では、特に承継前にこうした情報から見える課題に対し、
現社長と次期社長が主体となって取り組むことが重要です。
「根本的課題」を引き継がないためのチャンスと捉えてください。
このように、退職者の本音は会社にとって成長の種になりうるのです。
即戦力人材が採用できた、という間違ったゴール
失敗してしまう中途採用の考え方としてもう一つ挙げたいと思います。
それは、「即戦力採用だからサポート不要、バリバリ結果を出してくれる」
という思い込みです。
求める職務要件を満たす経験や資格を持った人材の確保に成功した場合、
採用できたことの満足感と大きな期待から、
このように考える経営者の方は少なくありません。
確かに中途採用のメリットは即戦力人材になりうる経験や資格を持った人材の
採用ができることと言って間違いではありません。
しかし、履歴書や職務経歴書にある内容は過去の話であって、
華々しい経歴も、「その人物が前の職場で出した実績」でしかないのです。
あなたの会社で同じような活躍ができるか、ということは別問題です。
人間関係の変化や前職との業務フローの違い、顧客の違いなど様々な違いがあり、
それらの変化に適応できるようサポートする意識と行動を持ってください。
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