海外投資で知っておきたい4つの法制度
FutureVision株式会社
代表取締役 上原崇寛(たかのり)
第1回 国外財産調書
はじめに
海外に資産を持つ機会は様々あります。
例えば、貿易業や飲食業を行っている場合、
現地企業との取引のためや、海外進出して店舗を出す際など、
現地法人を設立する機会があります。
給与所得者の方でも、現地企業から給料を受け取るために銀行口座を開設します。
この預金口座にあるお金も、立派な海外にある資産です。
さらに、各国の銀行が「ジャパン・デスク」を設置し、
それらの駐在員の方々に資産運用を提案することもあります。
このように海外に資産を持つ場合や、
それらのお金で資産運用をする場合のポイントを、
制度・相続・パフォーマンスに分け、6回に渡り案内していきます。
提出義務のある国外財産調書制度
まず制度面で抑えておくべきことの筆頭としては、国外財産調書の提出があります。
国税庁:No.7456 国外財産調書の提出義務
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7456.htm
【ポイント】
- 年度末で合計5,000万円を超える国外財産を保有する場合には、
国外財産調書を提出しなければならない - あくまでも調書を提出するだけであり、税を払うというものではない
- 偽って出したり、あえて出さなかった場合には、懲役や罰金の規定がある
国外財産は基本的に外貨になるため、為替の計算もしなければなりません。
平成25年度分より提出義務がスタートしたこの国外財産調書ですが、
平成28年度分で提出件数は「9,102件」となっています。
平成29年は、ビットコインなどの暗号通貨が一つのキーワードとなりました。
暗号通貨は海外の取引所を利用している人も多いため、
国外財産調書合計表では、その他の財産として計上することになると考えられます。
どれだけの件数が増えるのか、結果が楽しみです。
世界40カ国で連携して、個人の銀行口座の情報も交換するOECDモデル
「国外財産調書なんて、出さなくてもバレないでしょ?」
とおっしゃる方もいるのですが、結論としてOECD加盟国にある資産を、
日本の国税庁が捕捉をすることは、そう難しくはないことだと考えています。
税務当局間で、銀行口座など納税者の情報は自動的に交換されることとなるからです。
OECD(経済協力開発機構)とは、
ヨーロッパ諸国を中心に、日・米・英を含め35ヶ国の先進国が加盟する国際機関で、
租税条約が結ばれています。
金融で名高いスイスやルクセンブルクも加盟しています。
中国やインドは加盟国ではないもの、パートナー国になっています。
このOECDの加盟国間での規定が、様々な租税条約の国際モデルとなっています。
OECD加盟国及びパートナー
http://www.oecd.org/tokyo/about/members.htm
財務省:租税条約の概要
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/181.htm
『パナマ文書が世界に与えた衝撃』
パナマ文書やパラダイス文書など、世界的な富裕層の資産や納税を巡る騒動は、
記憶に新しいことだと思います。
富裕層への課税や資産内容の捕捉に関して、より厳しいルールが課されていくでしょう。
既に富裕層を対象として、海外での資産隠しへの取り締まりを強化するため、
国税庁は平成28年10月に、「国際戦略トータルプラン」を発表しています。
「そもそも提出しないと罰則がある制度ですし、いつかはバレます。」
と先ほどのような質問を受けた際には、答えるようにしています。
国外財産調書の提出がない場合の
「過少申告加算税等について、5%加重されます」の文面からすると、
無申告・重加算税まで含みを持たせた内容だと考えられます。
また、OECDの制度以前に、例えば銀行で海外送金をした際など、
お金の動きというのは必ずどこかに残っているものです。
バレる・バレないを考えることよりも、いかに適切に提出するかを考えた方が、
あらゆる面で合理的なのではと思います。
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