海外投資で知っておきたい4つの法制度
FutureVision株式会社
代表取締役 上原崇寛(たかのり)
第2回 国外居住と税率
『なぜ富裕層は海外に移るのか』
『お金持ちがシンガポールや香港に移住する』
このような話を聞いたことはないでしょうか。
なぜ欧州や米国でもなく、それらの国に日本からあえて移住をするのか。
理由は様々あると思いますが、
その大きな要素に、税率の違いがあることは間違いないでしょう。
例えば、法人税の最高税率は、日本が23.2%です。
一方、シンガポールが17%で、香港は16.5%です。
これらの国では有価証券の譲渡益や、配当への課税はありません。
そして、相続税も贈与税もありません。
0%です。
富裕層を国に呼び込むことは、大きな消費に繋がりますし、
その国の税理士・会計士・弁護士などの人材への仕事も生まれます。
そのため富裕層に有利な制度が設けられています。
日本に住んでいる居住者から、海外に拠点を移して日本の非居住者となることで、
このような税に関するメリットが受けられることになります。
『400億円が税金から支払われた、武富士事件』
ただ、税金のために海外移住するというのは、
出ていかれる方の国側として、見過ごすわけにはいきません。
そこで、2010年から財産の国外移転対策として、
「相続や贈与で財産を渡す人・受け取る人双方が「5年超」生活の実態を伴って
海外で居住していなければ、日本でも税金を納めること」という制度になりました。
この改正に先立ち、ある一つの事件が世間の注目を浴びていました。
「武富士事件」と言えば、内容を思い出す方もいらっしゃることと思います。
この事件では、消費者金融の雄であった武富士株式会社の、創業者からその家族への
生前贈与に関わる課税について、創業者の長男と国税庁が争いました。
生前贈与されていた約1,600億円の資産に対して、
長男は海外居住であったため日本での課税はされない旨を、
国税庁は生活の実態が日本であるとして日本での課税を主張したものです。
最高裁までもつれたこの裁判は、2011年に判決として海外居住が認められ、
還付加算金として約400億円を国が支払うこととなりました。
国税庁としては、1,600億円の税金を取り損ね、
逆に400億円を税金から支払うこととなる、最悪の結果となりました。
この武富士事件を境に、先ほどの、通称5年ルールが始まったとされています。
日本経済新聞
『武富士元専務への課税取り消し 2000億円還付へ』 2011/2/18付
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG17022_Y1A210C1000000/
『5年ルールから10年ルールへ』
さらに2017年には、この被相続人・相続人の海外居住の期間が、
突如として10年に変更されました。
中には親子で海外に居住して4年経ち、
あと1年後に日本での課税がされなくなる時期を見計らって財産を贈与しようと
考えていた富裕層ファミリーもいたかもしれません。
国の制度は国の力で変えられます。
制度の抜け道というのは存在しますが、施行する側が気付けばすぐに埋められます。
そうであれば、いかに適切な中で最小限の支払にするかを考える方が、
将来自分自身を助ける結果となるのではないでしょうか。
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