大不況を生き抜くための中小企業における新規事業の進め方
新規事業に取組みはじめる時の思考法
戦略組織コンサルティング合同会社 代表
関西大学 大学院 商学研究科 非常勤講師
村上 統朗
中小企業における新規事業への取り組みは経営資源、企業体力が限られるため、
リスクの軽減や既存人材の有効活用が求められます。
そこで、以下の3つの思考を持つことをお勧めしています。
① n字思考
② ロス思考
③ 宝探し思考
① n字思考
n字思考とは、業界と製品・商品・サービスを、それぞれ既存と新規に分けて、
新規事業への取り組みを考えた思考です。
リスクを考慮すると、n字の書き方の順番に新規事業への取り組みが自ずと進むため、
n字思考と命名しました。
(1) 既存商品→既存業界
業界自体に成長力があり、
経営の効率化など経営体質の強化を図ることによって、
十分売上・利益の確保が見込める状態である場合
売り方や見せ方などを変え、既存業界を深堀し、
新規販売先を増やすこととなります。
(2) 新商品→既存業界
業界自体が成熟し、同質化が進み、
競合他社との競争が激化し差別化が必要な状態である場合
新たな商品を開発等し、競合他社と差別化を図り、
売上・利益の増加を図ることとなります。
(3) 既存商品→新業界
業界自体が衰退し、販売先の体力低下も著しく
回復の見込みがない状態である場合
自社の核となる商品や技術、ノウハウ等を見直し、
他業界にて活用できる方法を見つけることとなります。
(4) 新商品→新規業界
業界自体も今後の見通しが立たず、自社の経営資源も陳腐化し、
一から新しい業界にて出直す状態である場合
業務提携やFC参加など少しでも参入リスクを抑え、
新規業界に参入することとなります。
② クロス思考
クロス思考とは、新規事業を展開する方向を、
水平(横展開)と垂直(縦展開)という視点で捉る考え方です。
=横展開を図る場合=
エリア展開と水平展開の2つがあります。
エリア展開とは、既存商品・サービスを既存エリアから他エリアへ、
名古屋から岐阜、三重、豊橋、静岡へと横展開を図ることです。
水平展開とは、既存技術・ノウハウ等を既存業界から新業界に展開することです。
眼鏡フレーム業界におけるメッキ加工技術を自動車業界に生かすなどの例があります。
=縦展開を図る場合=
流通経路と製品・部品による展開の2つがあります。
流通経路においては、メーカーが卸や直販を行ったり、卸が製造や直販を行ったり、
小売りがPB商品を開発製造し販売するなどの例が挙げられます。
製品・部品においては、部品メーカーが最終製品を製造したり、
製品メーカーが部品を内製化する例が挙げられます。
横展開するにも縦展開するにも、
暗黙的に存在した縄張り的なものは完全に喪失し、
すでになりふり構わない仁義なき戦いが繰り広げられています。
中小企業も被害者意識を持つだけでは生き残れません。
今後の方向性を考えるうえでも有効な思考法です。
③ 宝探し思考
宝探し思考とは、
既存の経営資源を見直して、隠れた有効な資産を見つけ出し活用することで
新規事業の在り方が見えてくるというものです。
欠点はプロダクトアウト(※)になりやすいことですが、
リスクも少なくうまくニーズにマッチすれば化ける可能性がある
新規事業への取り組み方です。
※プロダクトアウトとは、企業が商品開発・生産・販売活動を行う上で、
企業側の都合を優先するやり方。作ってから売り方を考える方法
新規事業というと何か新しいことに取り組まなければならない
という固定概念が存在します。
しかし、経営資源が限られる中、実際中小企業が取り組めることは限られています。
失敗が許されない中小企業は、
既存業界・事業、所有する経営資源をしっかり把握した上で
新規事業に取り組むことが必要です。
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