環境ビジネスに低リスクで参入する方法
参入分野の上手な選び方
株式会社エスト・コミュニケーションズ代表取締役
マーケティングコンサルタント
弓削 徹(ゆげ・とおる)
ストレッチ戦略で行こう
新規事業を立ち上げるときのマーケティング思考として「ストレッチ戦略」があります。
かんたんにいえば「ヨコ展開」。
メインビジネスと業際を接するとなりの分野へ展開すれば、
ある程度の土地勘を持ってビジネスに取り組むことができるので成功する確率が高まるという
考え方です。
つまり、既存の技術を生かす、あるいは既存の顧客層、既存の流通ルートを生かす、
ということです。
逆にいえば、[未体験の技術+なじみのない顧客+はじめての流通ルート]で
新規事業を立ち上げた場合に、どれほど成功の可能性が見込めるのか、
という話になります。
そのため、自社技術と環境ビジネスとをヒモづける視点を持つ、
また既存の顧客に必要な環境ビジネス製品やサービスを発想する、という方向性で
参入分野を検討することが成功に近づくひとつのルートとなり得ます。
では、"ストレッチ"にどのような事例があるかをパターン別に見ていきましょう。
環境ビジネス参入の実例
(a)自社の既存技術を環境製品に展開した事例
- 蚊帳・農業用防虫ネットのメーカー、日本ワイドクロスは屋根を覆う遮光・遮熱ネットを開発。光、熱は遮り、風は通す〔ハーフスクリーン〕を設置すると、空調費が4割減になるケースも。
工場、倉庫で納入が進み、実績は倍増中。 - テントメーカーだった太陽工業は、"シート"を巻いたり畳んでコンパクト化するノウハウを生かし、巻き取りができるシートタイプのソーラー発電装置を開発。
テレビの経済ニュース番組でも取り上げられるなど話題に。 - 岡山県の製紙メーカーが、ブラインドを下げると光を拡散して室内が明るくなる
紙製ブラインド「アカリナ」を開発。
話題性も抜群で、販売実績を伸ばしている。
(b)自社の既存製品を、環境対応に切り替えた事例
- 山口の工務店、東光工業は、地中の熱差を住宅に取り込んで空調する省エネ住宅を開発。
グッドデザイン賞も受賞。 - 建設用タイル製造の亀井製陶は、地域の下水汚泥焼却灰や石炭灰を原料とする
地球製レンガを販売。 - 愛媛・今治の池内タオルでは、工場の使用電力に見合う風力発電を利用。
「風で織るタオル」ブランドで売り出し、高く評価される。
(c)既存の顧客、ファンを見込んだ事例
- スイスアーミーナイフで知られるアウトドアグッズメーカーのウェンガー社は、
ファン向けにアウトドアの過酷な環境でも発電するソーラーチャージャーを製造・販売。 - 雑貨メーカーのアイリスオーヤマでは、ホームセンターなどの購買層と流通経路を見込み、 LED電球を販売。
(d)出てしまう廃棄物や副産物を生かした事例
- 鉛筆メーカーの北星鉛筆は、生産の過程で出る大量のおがくずに
水と食品添加物の接着剤を混ぜることで、べたつかず、安全で自然に還る粘土を開発。
2年間で30万個を売るヒットに。 - 消火器メーカーのモリタは、廃消火器(8年で廃棄)の中身(窒素、リン)を肥料に転用して
リサイクル。
ほかにも、
自社に導入して成功した節電・省エネ技術を企業に教えるコンサルティングビジネスや
ESCO事業(省エネ総合サービス:光熱費を下げてマージンとる)などへの展開も
おこなわれています。
このように、建材メーカーが太陽光発電の架台をつくったり、
不動産会社がメガソーラー用地を仲介するなどのわかりやすい事例ばかりではなく、
その業種・業界でなければ着想できない新規事業はたくさんあります。
むしろ、一般的ではないビジネスモデルのほうが、
勝ち抜くことができる可能性が大きいのかもしれません。
これらの事例を参考に、ぜひ自社に固有の環境ビジネスアイデアを発想してください。
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